初回胚移植を行う不妊女性に対して子宮内膜スクラッチが着床率、妊娠率、出産率を改善するかにについての検討です。内膜スクラッチとはソフトな器材で内膜を意図的に擦ったり、内膜を採取することで内膜にダメージを与えることです。
出典
Amerigo Vitagliano, Alessandra Andrisani, Carlo Alviggi, Salvatore Giovanni Vitale, Gaetano Valenti, Fabrizio Sapia, Alessandro Favilli, Wellington P. Martins, and others
Fertility and Sterility, Vol. 111, Issue 4, p734–746.e2
目的
初回胚移植を行う女性に対して、IVF後の結果を改善させる手技として子宮内膜スクラッチ(ESI)が妥当であるか評価すること。
方法
初回胚移植を行う女性を対象として、ESIを行った群と行わなかった群の2群間での比較です。ランダム化比較試験から公表および非公表データを含めて検討しました。分割胚(D2またはD3)を移植しました。
対象
初回胚移植を実施する、子宮内腔に異常がなく、卵管水腫がなく、卵巣機能正常(FSH<12、または<10と定義)である女性。年齢は研究によりバラつきありますが、多くの研究では20歳から上限年齢は38~ 40歳未満としました。
主な結果の測定値
継続妊娠/出生率(OPR / LBR)、臨床妊娠率(CPR)、多胎妊娠率(MPR)、流産率(MR)、および子宮外妊娠率(EPR)
結果
7件の研究データがあり、1354名が参加しました。移植胚はPGT-A(着床前診断)は行われていません。
筆者らは内膜スクラッチの実施有無で継続妊娠/出生率(OPR / LBR)、臨床妊娠率(CPR)、多胎妊娠率(MPR)、流産率(MR)、および子宮外妊娠率(EPR)に有意な差が無いことが分かりました。
サブグループ解析により採卵日同日に内膜スクラッチ(Novakキュレット:金属の鋭匙)を実施した場合、臨床妊娠率/出生率(OPR / LBR):(RR0.31 、95%信頼区間 0.14-0.69)、および臨床妊娠率(CPR):(0.36、95%信頼区間 0.18-0.71)と減少させることが分かりました。
胚移植の前周期に行うESI(ソフトデバイス:ピぺル:内膜の一部を吸引する器材)はOPR / LBR、CPRに影響はありませんでした。 新鮮胚と凍結胚の移植との比較でもESIの影響はありませんでした。
結論
現在までのデータからは初回胚移植を実施する際に、ESIがIVFの結果を改善する証拠はなく、ESIを避けるべきあると結論づけています
解説
1978年にARTによる最初の赤ちゃん(いわゆる試験管babyと言われていました)が生まれてから歳月が過ぎ、ART技術(卵巣刺激法、黄体補充、胚培養環境、胚選別、移植)は改善してきましたが、それでも依然、臨床妊娠率(CPR)は30-40%、出産率(LBR)は20-30%と比較的低いわけです(Malizia BA, N Engl J Med 2009. ToftagerM, Hum Reprod 2017)。
着床がうまく行かない理由としていろいろと分かってきましたが、その中で内膜&胚のクロストーク(着床するための情報交換)は大部分が不明です。
ここでのポイントは着床前診断を行った染色体正常の胚を移植したとしても100%成功しないことです。今までは異常胚であったから着床しないとか流産してしますと予想していたわけです。正常胚でも着床しないということは、胚以外のどこかに問題があるのでしょう。
そこで妊娠率を改善するために考えられたのが、内膜スクラッチ(ESI)です。器材を子宮内腔挿入し意図的に内膜にダメージを与えることを内膜クラッチと言います。そのための器材は金属でないソフトな器材(内膜細胞診用のブラシや吸引ピペット)を用います。麻酔も必要ありません。
最近の文献のリビューとメタ解析では2-3回以上新鮮胚移植を行いうまく行かなかった女性に対してESIが生産率と臨床妊娠率を改善したとの報告があります(Vitagliano A, Fertil Steril 2018)。
またその文献には初回新鮮胚移植がうまく行かなった場合や融解胚移植を行った方に対して実施したESIがIVF転機を改善は認めないとしています。つまり同一著者で昨年報告した報告では新鮮胚移植で2-3回うまく行かなった場合の改善策としてESIをあげており、初回の胚移植に対して行うESIの効果の有無についてはデーターのリビューが過去になかったため今回実施されたわけですが、まあ 最初からESIをやるDrはいないと思いたいですね。