タイミングや人工授精がうまく行かない場合、体外受精へステップアップすることが一般的ですが、他の選択肢として診断的腹腔鏡手術というものがあります。私が医師になって10数年携わってきた腹腔鏡手術ですが、以前のころに比べて機器や麻酔法の改善により日帰りで行える手術が増えてきました。手術なのに日帰りで行える? びっくり!ですよね。

日本の婦人科では一般的ではありませんが、すでに鼠経ヘルニアの手術などは日本では日帰りで行っています。創の大きさも婦人科手術と同様なので、心配なく日帰り手術はできるでしょう。当院でも行っていく予定です。

腹腔鏡手術とは?

内視鏡という言葉は聞いたことがあるでしょうか?胃カメラ、大腸カメラなどありますが、器具の先にカメラがついていて、器具の先にカメラが付いており、そこで写したがものをテレビに映す器具のことを内視鏡といいます。では腹腔鏡ですが、これは細いカメラをおへそから挿入してお腹の中に入れます。そのままではお腹はへこんだまままなので、そこに二酸化炭素ガスを送りお腹を膨らませます。カメラの先には光源といって光を出す器械がついているので、これでお腹の中を観察することができます。鉗子(ものをつかんだりする道具)を使って腹腔鏡手術を行います。お腹の中を観察することを診断的腹腔鏡といいます

この腹腔鏡を使ってできる手術はなんでしょうか?

まずは正常の卵管采の位置を示します。卵管と卵巣は近くに位置して排卵間近に卵管采が移動して卵巣を覆います。そうすることで卵をキャチするわけです。

 

 

一つ目は、癒着剥離術です。子宮や卵管に癒着が無いか確認します。卵管と周囲の臓器との癒着があると排卵する卵をうまくキャッチできずにキャッチアップ障害の原因となります。その原因としてクラミジア感染症や子宮内膜症があります。治療としては癒着剥離を行います。

 

 

二つ目は、卵管采形成術です。卵管采(卵管の出口で花びらのような形)がつぶれてうまく機能していないと疑われる場合、原因としてクラミジア感染症や子宮内膜症があげられます。一つ目は違い卵管采自身に問題あるため、卵管采形成術を行います。つぶれた花びらを切ったり縫ったりして花びらに再度形成するのです。この手術により卵をキャッチできるようなります。

 

 

三つ目は、嚢胞摘出術です。卵巣内にチョコレート嚢胞がある場合です。チョコレート嚢胞の正式名称は、内膜症性卵巣嚢胞ですが、卵巣内に子宮内膜組織と類似した組織が入り込んでそこで毎月月経と同じように出血を繰り返します。そのため時間の経過とともに卵巣内に血液が貯留していき腫れてくるのです。多少大きくなっても自覚症状はないでしょう。ただ、もともと内膜症がある方は月経痛がひどい等の症状があるかもしれません。

以前はチョコレート嚢胞があった場合は、手術で嚢胞を摘出するという卵巣嚢胞摘出術を行っていましたが、卵巣へのダメージが大きく積極的に手術は行わないのが一般的です。どのような方が、手術対象になるかというと①大きすぎて採卵が難しい②癒着があって卵巣が移動せず採卵が難しいというケースが大半です。内容物だけを吸引することもできますが、時間が経てば、再発するため一時しのぎにしかなりません。 ただし内膜症の患者さんに腹腔鏡手術の際、生理食塩水で腹腔内を洗浄することで骨盤内環境が良くなるため妊娠しやすくなるというデータはあります。上記の理由で手術を行うとしても、手術後の卵巣を縫合したり、電気メスを多用しすぎると卵巣機能低下を招きますので極力さけるように手術行います。

以上のような方が対象になります。

いかがでしょうか? そのままARTへステップアップという選択肢だけでなく、まだ腹腔鏡という選択肢があるのです。もちろんご自身のAMH(卵巣予備能)によって治療計画を立てる必要はあります。