今回は、UAE ドバイからの報告です。UAEではPGT-Aを希望する場合、PGT-Aが出るまでに時間を要するため、初期胚(D3)で検査実施して正数体という結果がでた胚盤胞を移植しています。
分割胚(D3)の胚生検および胚盤胞の内細胞塊(ICM)と栄養外胚葉(TE)の胚生検をした後、PGT-Aの検査(NGS法)を実施しました。その一致率を見るために、移植胚に選ばれなかった初期胚を胚盤胞まで追加培養し検査を実施してます。
Lawrenz B1, etal.
Hum Reprod. 2019 May 22. pii: dez055. doi: 10.1093/humrep/dez055.
2016年8月から2017年1月までUAE不妊センターで行われた後方視的研究。
女性の平均年齢は33.9歳で、24〜46歳の範囲であり、夫婦当たりの平均生検胚数は2.2(1〜7胚の範囲)であった。
割球生検は、UAEの法律で胚を凍結保存することができないために、3日目(D3)の切断段階で行われていた。 移植のために選択されなかった胚の遺伝的結果を確認するために、胚盤胞期のTE(BLASTO-TE)ならびにICM(BLASTO-ICM)のさらなる生検をD5に行った。
移植胚に選ばれなかった余剰胚を用いて調査を行った。
結果
胚あたり全生検(D3 / BLASTO-ICM / BLASTO-T)を実施し、84個胚のうち50個(59.5%::50/84)が、胚の診断(異数体/正倍数)において一致していないかどうかに関係なく3つ全ての結果において一致を示した(=完全一致)。
または異数性胚の場合、胚診断(異数体/正倍数)が一致不一致関係なく、34個の胚が3回の生検で少なくとも2個の一致しない結果を示した。 9(10.7%:9/84)胚は3つの生検すべての間に完全な不一致がありました。
D3 / BLASTO-TE、D3 / BLASTO-ICMおよびBLASTO-TE / BLASTO-ICMの間の偽陽性結果は、それぞれ26.4%/ 30.2%および7.5%であり、一方、異なるアプローチ間のカッパ(一致指数は0.647、0.553および0.857であった。
したがって、D3 / BLASTO-TE、D3 / BLASTO-ICM、およびBLASTO-TE / BLASTO-ICMの信頼性は、それぞれ有意、中程度、ほぼ完全と解釈できる。
結論
ICM生検と比較したTE生検の信頼性はほぼ完全であるが、分割期生検とICM生検との間では信頼性は中程度なものである。(やや信頼性は低いが、信用できないことはないと解釈)
解説
内細胞塊とは赤ちゃんになる細胞の塊です。栄養外胚葉とは胎盤となる細胞の塊です。着床前診断で染色体を調べるにあっては、赤ちゃん自身の染色体異常の有無を確認したいわけですから内細胞塊の染色体検査をするのが最も正確ですが、赤ちゃんになる細胞の一部を採取することは、赤ちゃんへのダメージが大きいと考えられます。
そこで現在行われている着床前診断(PGT-A)は胚盤胞になった胚の内、栄養外胚葉の一部(4-5細胞)を採取して染色体検査を行っています。以前は分割胚で染色体検査を行っていましたが、これも6-8細胞中の1個を採取して検査することの胚へのダメージと、モザイクと言って細胞の一部が異常で一部が正常という状態が起こる頻度が高いとの報告で胚盤胞のTE細胞を採取することになったという背景があります。
今回の調査で分かったこと胚盤胞のICMとTEとの検査の一致は0.857とかなり高く、D3胚と胚盤胞ICMの一致率は0.553と低くはないが、信頼としては不十分であり、これまでの研究と同様なものであったということ。
D3胚で異数体と言われた胚が胚盤胞ICM、TEで正常である確率は30.2%、26.4%というは偽陽性率が高すぎます(陽性とは異数体という定義)。つまり着床前診断は胚盤胞のTE細胞で実施するのが、現時点では良いということになります。
この調査の限界は、移植のために選択された胚はD5で生検を受けていなかったので、この研究の限界は一致/不一致率の偏りの可能性あります。移植後の妊娠予後の報告が待たれます。