ホルモン補充周期で融解胚移植を行う際に、様々な理由で医師から指定された移植日を延期することがあると思います。ではどのくらい移植日を遅らせることができるのか、延期させることによって妊娠予後に影響があるのか? 今回はここについてまとめた報告がありますのでお伝えします。アメリカからの報告です。

Endometrial preparation before the transfer of single, vitrified-warmed, euploid blastocysts: does the duration of estradiol treatment influence clinical outcome?

Lucky Sekhon, Jessica Feuerstein, Stephanie Pan, Jessica Overbey, Joseph A. Lee, Christine Briton-Jones, Eric Flisser, Daniel E. Stein, and others

Publication stage: In Press Corrected Proof
Fertility and Sterility
Published online: April 24, 2019

染色体正常胚単一融解胚移植:プロゲステロン投与開始までのエストラジオール投与期間延長が臨床妊娠率に影響を与えるかの調査

対象者:着床前診断検査(PGT) で正常胚とわかっている凍結融解胚移植を受けた1439名

主な結果:出生の有無
副次結果:着床、臨床妊娠、早期流産、出生児体重、出生児妊娠週数、早産
をみました、

凍結胚移植前のエストロゲン補充投与期間中央値17.5±2.9日(期間レンジは10日から36日)、
生児獲得(+)群と生児獲得(-)群での背景は移植時年齢 36.7±3.8 (22.2–44.6)vs  36.3±4.1 (22.7–44.6)
移植時の内膜の厚さは 9 (7–19.7)vs 9 (7–20.7)㎜、経口エストロゲン製剤投与総量は93.8±19.5 vs 92.8±18㎎

着床率オッズ比0.99 95%信頼区間0.95ー1.03
臨床妊娠率オッズ比0.98 95%信頼区間0.94-1.01
早産のオッズ比は1.055 95%信頼区間0.95-1.17

エストロゲン補充の延長による分娩週数は早くなる傾向があったが、早産のオッズ比は1.055 95%信頼区間0.95-1.17であり早産との関連はなかった。

早産となった患者のBMIは有意に高かった(25.8±5.6%VS 23.1±3.7, P<0.001)。

結論:染色体正常胚の融解胚移植時、プロゲステロン投与開始前のエストロゲンホルモン補充の期間によって妊娠予後に影響はなかった。

エストロゲン補充期間の延長は分娩週数と逆相関することが分かったが、早産との関連はなし。

解説

ETを決定する場合、内膜の厚さや医師の意向によりタイミングが決定されます。しかし、それ以外にタイミングを決める状況として、PGT(胚の染色体検査)の分析結果判明を待つためや患者の希望などがあり、プロゲステロン投与開始を延期をしても妊娠予後に影響を与える問題があるかどうかは不明でした。

今回の結果からは、1-2週間、最大でも4週間の延期をしても良いと筆者らは言っています。
内膜のチェックはエストロゲン投与開始7-10日目で行い、7㎜未満を除外していますが、これは子宮因子を除外するためです。そして移植を決定する因子の一つである内膜の厚さを7㎜以上とし、一旦基準を上回れば、プロゲステロンの開始時期はある程度後ろにずらすことにより妊娠予後に影響はないということが今回の研究で分かりました。また、妊娠予後の対象項目を数多く上げていますが、いずれもエストロゲン投与延長による影響の差はありませんでした。ここでは特に血中のエストロゲンの値での基準はありません。データでは、血中エストロゲンレベルは 生児獲得(+):285pg/ml (208, 385) vs 生児獲得(-):293.5pg/ml (214, 395)でした。これは自然周期で卵胞1-2個育った時の血中エストロゲン濃度と同程度の値でした。内膜が7mmになるのに必要なエストロゲン量の一定の見解はありません。ただホルモン補充周期に入った患者さんの大部分が一定期間で内膜の基準に到達するには、エストロゲン濃度は200から300pg/mlあれば良いと言うことになるでしょう。血中エストロゲン濃度を高く設定すれば、内膜は厚くなりやすくなる。しかし、副作用として血栓症(血の塊が血管内にできる病気)があり、理想の血中エストロゲン濃度がどの程度なのか文献を確認いてご報告します。