Q 33歳  AMH3.9ng/ml
高刺激で採卵2回 凍結胚0個

①アンタゴニスト法 hMG225単位→hMG300単位
ガニレスト3回 卵胞数10個程度 オビドレル 卵なし
②ショート法 hMG 225単位 卵胞数11個
オビドレル 採卵4個 IVF1個受精 凍結できず(胚盤胞まで到達せず)

高刺激をしたのに卵がとれませんでした。どうしたら良いでしょうか?

A

以上のような質問がありました。まず気になったのが、E2(エストラジオール)の採血がされていません。2回の採卵周期ともE2を計測していませんので、クリニックの方針なのかもしれませんし、この方がたまたまE2 を計測されないケースだったのかもしれません。あくまでも推測に過ぎません。

1個あたり卵胞から分泌されるE2は200-400pg/mlです。年齢が上がってくるとE2 は上がる傾向があります。刺激をする際に、しっかり卵胞からE2 が出ているのか? 卵胞数はあるけれども刺激としては十分なのか? 採卵のタイミングは問題ないのか?を確認するうえでE2は必要です。

E2 を計測しなくても大半の方がうまく行くのかもしれません。しかし、うまく行かなった場合に、刺激法が悪いのか?、刺激が弱かったのか?、トリガーのタイミングが早すぎたのか?、トリガーの効きが悪かったのか? 分かりません。例えば「90%の方がそれでうまく行くのでE2 の計測は不要です。」という施設の考えであれば、それは患者さんに伝えるべきであろうし、その方針に納得される患者さんはその施設で治療をお受けするのは問題ないでしょう。しっかり採血をしたうえで判断材料にして欲しいという方は、先生にそのことをお伝えするか転院するしかありません。

採血や卵胞計測は、次の対策を考える上で必要な情報となります。

次とはなんでしょうか

それは次回の受診までの刺激量のことだったり次の採卵周期のことかもしれません。採血がなければ、待ち時間も短くて済みますし、費用も安く抑えることができます。しかし何回も採卵することを想定して受診されている方は一人もいらっしゃらいないと思います。だとすると診察1回1回が勝負でありベストな選択ができるようにしっかりデータの収集は行いたいものです。

必ずE2を計測します。この方はAMHの値が3.9ng/mlとしっかりありますので、高刺激は行いたいですね。この方のご年齢からすると採卵数は15個ぐらいは欲しいと思います。前回の刺激で10個程度の数がエコーで見えていたとしたらもう少し刺激を強くします。

次に一般的に空胞率は20%程度のため採卵時10個とも空胞とは考えづらいです。だとするとトリガーであるオビドレルの効きが悪かった? 卵胞の成長が今一つだった?など考えます。トリガーの効きが悪いとなるとHCGの量を増やすか、ダブルトリガー(ブセレキュ点鼻とHCG)、トリガーの時間を1時間早くするなど対策が打てます。

刺激を強くする場合に気になるのはOHSS(卵巣過剰刺激症候群)です。重症なケースは入院が必要なることもありますので、慎重な刺激が必要です。とは言え、E2をしっかりモニターすることでOHSS傾向かどうか予想はできますし、現在ではOHSSの症状を緩和するお薬や対処法も確立していますので、ご安心してください。

ただし、OHSSになりそうな場合は、全胚凍結が必要となります。1回の採卵周期を経験しなければ、刺激量が適切であった判断することは難しいです。OHSSを避けるために刺激を強くできないこともあります。しかし今回のケースでは2回目の採卵を行っているのでもう少し刺激を強くしても良かったし(実際は薬の種類は変更しているがそれでも弱い)、E2を計測して欲しかったです。

ダブルトリガーとなるとショート法やロング法はできませんので、刺激方法はアンタゴニスト法や黄体ホルモンNFB療法となります。

上手く卵が卵胞壁から剥がれないため卵が回収できないケースも稀ですがあります。フラッシュ法といって培養液を吸引した卵胞液量注入する(洗浄する)方法がありますが、データ的には獲得採卵数が有意に増加しないとの報告がありますので、治療としては一般的ではありません。

まとめ

以上となります。いかがだったでしょうか?
卵巣を刺激する際に、採血や卵帆の大きさを確認するのは、上記のような理由のためです。待ち時間や治療費は、1回1回の採卵を無駄にしないための先行投資だと考えていただけると幸いです。

我々生殖医療専門医は、誰もが、患者さんの妊娠を願って日々の診察を行っています。ただ人と人とのかかわりの中で、合う合わないというものは生じてしまいます。診察時に思った疑問は遠慮なく先生に聞いてみましょう。クリニックの選択権はあなたにあるのですから。

日々の診察でしっかりと説明する時間を確保するのは難しいでしょう。だとしたら、うまく行かなかった場合に、「どうしてうまく行かなかったのか」、「次はこうしてみましょう!」といった未来につながる声かけを先生方には患者さんに対して是非行って欲しいと思いますし、私も実践したいと思っています。

もし現状にご不安な方は、どうぞご相談にお越しください。スタッフ一同お待ちしております。

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