Q

子宮と直腸の癒着あり、体外受精は有効でしょうか?
今までの経過は、妊活開始まで2年間ほどOCを内服し、中止後すぐに不妊治療開始しました。タイミング4回後、妊娠しました流産となり、2か月後不妊治療再開しました.

タイミング2回とAIH2回目を実施しましたが結果がでません。現在25歳です。

子宮卵巣ともに内膜症の病変はエコーでは認めませんが、排便痛、性交痛などが生理のたびに悪化し、深部内膜症による子宮と直腸の癒着が疑わしいと主治医に言われました。

次回は体外受精にステップアップを考えていますが、深部子宮内膜症の場合は体外受精に有効なのでしょうか? 着床しにくいなどの不安要素はやはり普通より多くなってしまうのでしょうか?

A  

健康なカップルの月産出産率(カップルが1ヶ月で妊娠出産する確率)であり、15〜20%です1)。これとは対照的に、子宮内膜症の女性の月産出生率は2〜10%です2)。

これは、子宮内膜症の女性は毎月妊娠する可能性がかなり低いことを示唆しています。実際のところ子宮内膜症の女性の免疫システムの機能不全が明らかになり内膜症が不妊の原因となっていることが判明しました。

以前までは、内膜症による癒着で排卵時の卵子を卵管でキャッチできないキャッチアップ障害が原因とも考えられていました。もちろんそれも原因のひとつでしょう。

炎症、血管形成及び組織の成長に関与するサイトカインおよびケモカインは、子宮内膜症の女性の血漿及び腹水(PF)で増加しているとの報告があります3)4)。子宮内膜症病変の外科的除去は腹膜炎症を減少させ、そして生殖能力の改善をもたらすことが示唆されています。

以前の報告では、血漿および腹水でのGM-CSF、IL-2、IL-8、IL-10およびIL-17などの炎症性サイトカイン濃度が病変切除後に有意に減少したことが分かっており妊娠率を改善した報告があります5)6)。これらの所見は、子宮内膜症に関連した炎症が不妊症の原因となっている可能性を示しています。

子宮内膜症患者へ健康な卵子提供された受精卵を移植した場合と、非子宮内膜症患者へ健康な提供された受精卵を移植した対照群とを比較して着床率および妊娠率は同等でであったと報告されています7)-9)。

子宮、卵巣、卵管を含む女性の生殖器官は腹水に浸されており、子宮内膜症から産生される炎症促進性サイトカインやケモカインが卵母細胞や胚と相互作用し、それが成長に影響を与え、卵母細胞や胚に損傷を与える可能性があります。

子宮内膜症患者では有害な炎症環境により、卵子および胚の質が低下する原因となっています。卵胞内レベルのIL-8、IL-12、およびアドレノメジュリンは、IVF(高度生殖医療)を受けている子宮内膜症の女性で上昇しており、胚および卵母細胞の質の低下の指標となります10)。

まとめると、ヒトの研究は、子宮内膜症の女性において、卵母細胞と胚の質が悪く、妊娠率が低いことを示しています。

以上より内膜症がある患者さんは内膜症でない患者さんよりも妊娠しずらいことは事実です。ただし、質問者さんはご年齢も25歳であり卵質は問題ないため、完全自然周期や低刺激でなく、しっかり高刺激で複数の胚盤胞を作成、凍結することがポイントと思われます。

内膜症が子宮筋層内に発生する病態を子宮腺筋症といいますが、程度が低ければ、次周期以降移植することが可能です。腺筋症がある場合は、GnRHアナログ(スプレーや注射)を用いて腺筋症を小さくした後、移植するプランが良いと思われます。

また手術をして病巣を除去する選択肢もあります。病変の焼灼や腹腔内洗浄を行いますが、腹腔内の癒着を剥離の是非について賛否両論あります。それは再度癒着する可能性もあり、あまり意味がないという考えです。子宮、卵巣や直腸の位置によっては採卵しずらいということであれば、癒着剥離は意味があるでしょう。

文献

1) Female fecundity as a function of age: results of artificial insemination in 2193 nulliparous women with azoospermic husbands. Federation CECOS.
Schwartz D, Mayaux MJ
N Engl J Med. 1982 Feb 18; 306(7):404-6

2) A quantitative overview of controlled trials in endometriosis-associated infertility.
Hughes EG, Fedorkow DM, Collins JA
Fertil Steril. 1993 May; 59(5):963-70.

3)Angiogenic factors in endometriosis.
Taylor RN, Lebovic DI, Mueller MD
Ann N Y Acad Sci. 2002 Mar; 955():89-100; discussion 118, 396-406.

4)Role of cytokines in endometriosis.
Harada T, Iwabe T, Terakawa N
Fertil Steril. 2001 Jul; 76(1):1-10.

5)Surgical removal of endometriotic lesions alters local and systemic proinflammatory cytokines in endometriosis patients.
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Fertil Steril. 2016 Apr; 105(4):968-977.e5.

6)IL-17A Contributes to the Pathogenesis of Endometriosis by Triggering Proinflammatory Cytokines and Angiogenic Growth Factors.
Ahn SH, Edwards AK, Singh SS, Young SL, Lessey BA, Tayade C
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7)Outcome of patients with endometriosis in assisted reproduction: results from in-vitro fertilization and oocyte donation.
Simón C, Gutiérrez A, Vidal A, de los Santos MJ, Tarín JJ, Remohí J, Pellicer A
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8)Impact of stage III-IV endometriosis on recipients of sibling oocytes: matched case-control study.
Díaz I, Navarro J, Blasco L, Simón C, Pellicer A, Remohí J.
Fertil Steril. 2000;74:31–4.

9)Improvements achieved in an oocyte donation program over a 10-year period: sequential increase in implantation and pregnancy rates and decrease in high-order multiple pregnancies.
Budak E, Garrido N, Soares SR, Melo MA, Meseguer M, Pellicer A, Remohí J
Fertil Steril. 2007 Aug; 88(2):342-9.

10)Intrafollicular interleukin-8, interleukin-12, and adrenomedullin are the promising prognostic markers of oocyte and embryo quality in women with endometriosis.
Singh AK, Dutta M, Chattopadhyay R, Chakravarty B, Chaudhury K
J Assist Reprod Genet. 2016 Oct; 33(10):1363-1372.